湯浅 政明監督

不器用だけど純粋な彼女を
「波にのせてあげたい」

これまで僕は一つの作品の中に比較的いろいろなキャラクターを登場させてきました。それは「作品の〈世界〉を描きたい」という思いがあったからです。
しかし、本作ではもっとシンプルに登場人物たちに感情移入してもらうため、キャラクターの人数を絞って作ってみようと思いました。そうした中でメインキャラクターの一人である(向水)ひな子は、どこか自信のない人物として形作られていきました。そこは脚本の吉田(玲子)さんによって肉付けされた部分でしたが、そんな彼女を見て「自信のない人たちが自信を持てるようになる話になれば」と思うようになりました。したたかに生きなければならない世の中で、純粋な彼女を「波にのせてあげたい」と思ったんです。

本作では主人公の二人を、若いながらも確かな実力をお持ちの片寄涼太さんと川栄李奈さんにお願いすることができました。片寄さんは声だけでも男前ですよね(笑)。その声が画と合ったとき、「これでもう(雛罌粟)港のカッコ良さは保証されたな」と思いました。本当に男前で、しかも品のある声をされていると思います。川栄さんが演じられた、ひな子はただ可愛いだけのキャラクターではなく、ときには「どっこいしょ」と口走ってしまうような親しみやすいキャラクターです。観ている方に親近感を持ってほしいと思っていましたが、川栄さんにはそこもうまくプラスしていただき、良いバランスの人物になったと感じています。本作の中で二人が一緒に主題歌を歌う場面があるのですが、実はそこは片寄さんからのアイディアだったんです。片寄さんがリードする形でそのシーンはできあがっており、良い意味で“生っぽい”、幸せな恋人同士が本当に楽しそうに歌っている場面になっています。なかなかそういうシーンは他の映画にはないと思うので、そこは本作ならではの場面だと思います。松本穂香さん、伊藤健太郎さんもそれぞれ本当に素晴らしかったです。役に対してもいろいろとご自身でプランを考えてくれました。あとは、これは片寄さんと川栄さんも同じですが、お会いして“なんて感じがいいんだ!”と驚きました(笑)。

本作は今までの僕の作品よりも物語もとてもシンプルなラブストーリーになっているので、かなり間口の広い作品に仕上がったと思います。分かりやすさは意識しましたが、全部の画が自分で好きだと思えるものです。普通のドラマをそのまま描いていくだけではアニメーションにする意味がないので、「あっ!」と驚けるようなシーンも随所に織り交ぜています。特に個人的には決まった形のない「水」を描くのが好きなので、自分が普段観察したり実験したりして「こんな形にもなるんだ」と発見した「水」のフォルムを作品の中で描いていけたのが楽しかったです。消防士やサーファーといった、自分が今まで知らなかった世界を調べて描いていくのも面白い作業でした。僕はいつでも自分が新しく発見して感動したことを描きたいと思っているんです。本作にはそうした感動がたくさん詰まっていますので、ぜひ多くの人にそれを共有してもらいたいと思っています。